
ラヴェルの管弦楽編曲版で有名なこの組曲「展覧会の絵」は,ムソルグスキーが作曲したことは知っていても,原曲がピアノソロであることを知らない方もおられることでしょう。実際,原曲がピアノソロであることが信じられないくらい多彩な曲であると思います。
今日は,敢えてその原点版であるピアノ独奏版をご紹介したいと思います。
モデスト・ムソルグスキーは,若くして亡くなった親友ヴィクトル・ハルトマンの遺作展からインスピレーションを得てこの組曲を作曲しました。画家であると同時に,建築家でもあったハルトマンを高く評価していたムソルグスキーは,おそらくその自慢の親友に捧げるためにこの組曲を作曲したのでしょう。
アシュケナージの演奏は,まさにムソルグスキーの思いを代弁していると僕は思います。元々アシュケナージは真摯な演奏が胸を打つピアニストだと感じていましたが,30分を超えるこの大作を始終ひたすら誠実に,丁寧に演奏するこの録音を聴くと,この作品に対する彼の思い入れは並々ならぬものだと感じました。
特に,彼が得意とする弱奏部の演奏は非常に素晴らしく,その中でも「死せる言葉による死者への呼びかけ」は涙が出るかと思うほど美しい音楽に仕上がっています。
ラヴェルのオーケストレーションでは華やかなイメージが強い,最後の「キエフの大門」も,アシュケナージのピアノはどことなく悲しさを湛えているように思えます。親友の死を惜しむムソルグスキーの思いが伝わってくるかのようです。
さらに,このCDには興味深い点があります。それはカップリングにアシュケナージ編曲の管弦楽版が収録されているということです。ラヴェル編曲の管弦楽版は確かに素晴らしい出来であるが,“ムソルグスキーの作品”というよりは,“ラヴェルの作品”であるという性質の方が強いイメージがある・・・というのは,多くの方が思うところでしょう。
アシュケナージはそれに疑問を投げかけているのです。
だから,アシュケナージは編曲の際に,できるだけ作曲家の意図に近づけるためにいくつかの努力をしています。
まずは,全部で5つある「プロムナード」を全部演奏させていること。ラヴェル版では1つカットされて4つになっているのです。
そして次に,ラヴェルが多用した金管楽器の働きを抑えることで,全体的に“華やか”ではなく,言うなれば“泥臭い”オーケストレーションに仕上げています。これによって,この組曲がもつ“鎮魂歌的性質”が浮き彫りになっているように感じます。
確かに,ラヴェルの編曲と張り合うほどの魅力は感じられない部分もあるかも知れませんが,作品の性質が良く表現されていて,一度は聴く価値のある編曲だと思います。興味を持たれた方は是非聴いてみてください。
余談ですが,この組曲「展覧会の絵」には,他にもストコフスキー版など,様々な編曲版があります。僕はまだラヴェルとアシュケナージのものしか聴いていませんが,全部聴き比べてみるのも楽しそうですね。
―詳細―
ムソルグスキー
組曲「展覧会の絵」
(ピアノ・オリジナル版/アシュケナージ編曲による管弦楽版)
ヴラディーミル・アシュケナージ(Pf/指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1982年 DECCA UCCD-9022
―参照―
a passion for MC
富田勲さんの編曲があるとは知りませんでした・・・。日本人なら僕は以前,保科洋先生が吹奏楽版に編曲したものを演奏したことがあります。
バルビローリのクラシック音楽日記
ストコフスキー版について書いておられます。そうなんですよね,ストコフスキー版では冒頭はトランペットではなく弦楽なのです。あぁ,やはり一度は聴いてみたい。
アシュケナージの演奏は,まさにムソルグスキーの思いを代弁していると僕は思います。元々アシュケナージは真摯な演奏が胸を打つピアニストだと感じていましたが,30分を超えるこの大作を始終ひたすら誠実に,丁寧に演奏するこの録音を聴くと,この作品に対する彼の思い入れは並々ならぬものだと感じました。
特に,彼が得意とする弱奏部の演奏は非常に素晴らしく,その中でも「死せる言葉による死者への呼びかけ」は涙が出るかと思うほど美しい音楽に仕上がっています。
ラヴェルのオーケストレーションでは華やかなイメージが強い,最後の「キエフの大門」も,アシュケナージのピアノはどことなく悲しさを湛えているように思えます。親友の死を惜しむムソルグスキーの思いが伝わってくるかのようです。
さらに,このCDには興味深い点があります。それはカップリングにアシュケナージ編曲の管弦楽版が収録されているということです。ラヴェル編曲の管弦楽版は確かに素晴らしい出来であるが,“ムソルグスキーの作品”というよりは,“ラヴェルの作品”であるという性質の方が強いイメージがある・・・というのは,多くの方が思うところでしょう。
アシュケナージはそれに疑問を投げかけているのです。
だから,アシュケナージは編曲の際に,できるだけ作曲家の意図に近づけるためにいくつかの努力をしています。
まずは,全部で5つある「プロムナード」を全部演奏させていること。ラヴェル版では1つカットされて4つになっているのです。
そして次に,ラヴェルが多用した金管楽器の働きを抑えることで,全体的に“華やか”ではなく,言うなれば“泥臭い”オーケストレーションに仕上げています。これによって,この組曲がもつ“鎮魂歌的性質”が浮き彫りになっているように感じます。
確かに,ラヴェルの編曲と張り合うほどの魅力は感じられない部分もあるかも知れませんが,作品の性質が良く表現されていて,一度は聴く価値のある編曲だと思います。興味を持たれた方は是非聴いてみてください。
余談ですが,この組曲「展覧会の絵」には,他にもストコフスキー版など,様々な編曲版があります。僕はまだラヴェルとアシュケナージのものしか聴いていませんが,全部聴き比べてみるのも楽しそうですね。
―詳細―
ムソルグスキー
組曲「展覧会の絵」
(ピアノ・オリジナル版/アシュケナージ編曲による管弦楽版)
ヴラディーミル・アシュケナージ(Pf/指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1982年 DECCA UCCD-9022
―参照―
a passion for MC
富田勲さんの編曲があるとは知りませんでした・・・。日本人なら僕は以前,保科洋先生が吹奏楽版に編曲したものを演奏したことがあります。
バルビローリのクラシック音楽日記
ストコフスキー版について書いておられます。そうなんですよね,ストコフスキー版では冒頭はトランペットではなく弦楽なのです。あぁ,やはり一度は聴いてみたい。
この記事へのコメント
貴ブログにインスパイアされ、再聴いたしました。ピアノ原曲は繊細で美しい演奏・・・だが、ワタシにはリヒテルの壮絶演奏が脳裏にあるので少々物足りない・・・これは好みの差異範疇ですね。
管弦楽版は原曲からの原色感が残って、これはこれで魅力的。但し、演奏が少々大人しいでしょうか。なんといってもRAVEL版には多種多彩な録音がありますもんね。
ストコフスキー版はニュー・フィルハーモニア管より、BBC響のライヴがいっそうド派手っぽくて楽しい。フンテク版(セーゲルスタム)のCDもあり(これはいっそう野性的)、N響定期では「リムスキー・コルサコフ版」(全曲編曲に非ず)も演奏されたことがあります。(マルク・アンドレーエだったかな?)
管弦楽版は原曲からの原色感が残って、これはこれで魅力的。但し、演奏が少々大人しいでしょうか。なんといってもRAVEL版には多種多彩な録音がありますもんね。
ストコフスキー版はニュー・フィルハーモニア管より、BBC響のライヴがいっそうド派手っぽくて楽しい。フンテク版(セーゲルスタム)のCDもあり(これはいっそう野性的)、N響定期では「リムスキー・コルサコフ版」(全曲編曲に非ず)も演奏されたことがあります。(マルク・アンドレーエだったかな?)
a passion for MCの管理人です。
トラックバックありがとうございます。
私も改めてアシュケナージ編曲版を聞きなおしました。ラヴェル版にひけをとらない素晴らしい編曲だな、と思いました。
また、こちらにもちょくちょくお邪魔させていただきます。
トラックバックありがとうございます。
私も改めてアシュケナージ編曲版を聞きなおしました。ラヴェル版にひけをとらない素晴らしい編曲だな、と思いました。
また、こちらにもちょくちょくお邪魔させていただきます。
2005/07/06
(水) 12:12:20 | URL | yu_ki #4ARdecsc[ 編集]
(水) 12:12:20 | URL | yu_ki #4ARdecsc[ 編集]
私はアシュケナージ(pf)の1967年録音を持っています。シンプルな演奏で何度聴いても飽きません。
メータ指揮のラヴェル版とカップリングされています。
今度はアシュケナージ編曲にも挑戦してみたいと思います。
メータ指揮のラヴェル版とカップリングされています。
今度はアシュケナージ編曲にも挑戦してみたいと思います。
コメントありがとうございます。
確かにアシュケナージは地味な感じがするのは否めないですよね。僕も一度はアツい系ピアニストの録音を聴かなければと思っているのですが,中々手が出せずにいます。
それはさておき,そういうアシュケナージの演奏なので,オケの演奏が地味なのも,アシュケナージが狙ったことなのかなぁという気がします。元々あまり派手な音楽の作りはしない人ですしね。僕は昔は熱演・爆演大好きだったのですが,今はどういう心境の変化か大人しくて綺麗な演奏の方が好きですね。だからアシュケナージは割と気に入っているのですが,確かに物足りない点があるのも事実だと思います。
フンテク版などは初めて名前を聞きました。そんなのもあるんですね。リムスキーは確か弟子にアレンジをさせて,さらにそれをいくつか校訂しているはずですから,リムスキー版はそのことかも知れませんね。本当にいろいろあるものですね。手を出すとキリがなさそうだ・・・。
確かにアシュケナージは地味な感じがするのは否めないですよね。僕も一度はアツい系ピアニストの録音を聴かなければと思っているのですが,中々手が出せずにいます。
それはさておき,そういうアシュケナージの演奏なので,オケの演奏が地味なのも,アシュケナージが狙ったことなのかなぁという気がします。元々あまり派手な音楽の作りはしない人ですしね。僕は昔は熱演・爆演大好きだったのですが,今はどういう心境の変化か大人しくて綺麗な演奏の方が好きですね。だからアシュケナージは割と気に入っているのですが,確かに物足りない点があるのも事実だと思います。
フンテク版などは初めて名前を聞きました。そんなのもあるんですね。リムスキーは確か弟子にアレンジをさせて,さらにそれをいくつか校訂しているはずですから,リムスキー版はそのことかも知れませんね。本当にいろいろあるものですね。手を出すとキリがなさそうだ・・・。
2005/07/07
(木) 00:32:35 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
(木) 00:32:35 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
いえ,こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。
ふと思ったのですが,アシュケナージの編曲版は木管楽器奏者にとっては割と楽しそうですが,金管楽器を吹かれる方にとっては少し物足りないかもしれませんね。yu_kiさんはどう思われますか?またお答えを聞かせていただけると嬉しいです。
ふと思ったのですが,アシュケナージの編曲版は木管楽器奏者にとっては割と楽しそうですが,金管楽器を吹かれる方にとっては少し物足りないかもしれませんね。yu_kiさんはどう思われますか?またお答えを聞かせていただけると嬉しいです。
2005/07/07
(木) 00:38:50 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
(木) 00:38:50 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
コメント及びトラックバックありがとうございました。1967年の録音はアシュケナージが最初に録音した「展覧会の絵」ですね。ちなみに僕がエントリーしたのは2回目のようです。
メータのラヴェル編曲版と共に未聴なのですが,初回もやはりシンプルな演奏になっているのですか。対照的にメータはきっと濃い演奏になっているのでしょうね。
メータのラヴェル編曲版と共に未聴なのですが,初回もやはりシンプルな演奏になっているのですか。対照的にメータはきっと濃い演奏になっているのでしょうね。
2005/07/07
(木) 00:42:18 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
(木) 00:42:18 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
再びお邪魔します。
サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレのトランペットソロがヴァイオリンのソロに代わっていて驚きました!
部分的にではありますが、ラヴェル版よりオクターブ上がっているところもあり、吹きごたえという面では、さほど変わりないのではないでしょうか。最後はラヴェル版と同じくらいしんどいと思います…粗末な答えで申し訳ありません。もしよければ参考にしていただければ幸いです。
サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレのトランペットソロがヴァイオリンのソロに代わっていて驚きました!
部分的にではありますが、ラヴェル版よりオクターブ上がっているところもあり、吹きごたえという面では、さほど変わりないのではないでしょうか。最後はラヴェル版と同じくらいしんどいと思います…粗末な答えで申し訳ありません。もしよければ参考にしていただければ幸いです。
懇切丁寧なコメントを頂いたにも関わらずご返事が遅くなりまして大変申し訳ございません。
確かにゴールデンベルクとシュミュイレのソロが変わっているのはびっくりしますよね。僕はキエフに入った瞬間オーボエが中心になっているのが非常に驚きだったので,もしかしたらトランペットには物足りなかったりするのでは・・・と思っていましたが,そうですね,確かにオクターブ変わっているところも言われてみれば分かりました(それまで気付かなかったのがお恥ずかしいですが)。
考えてみればこれまであまりトランペットの方にいろいろな話を伺う機会が少なかったように思います。とても参考になる話を聞かせていただきましてありがとうございます。これからもいろいろとコメントいただければ嬉しいです。
確かにゴールデンベルクとシュミュイレのソロが変わっているのはびっくりしますよね。僕はキエフに入った瞬間オーボエが中心になっているのが非常に驚きだったので,もしかしたらトランペットには物足りなかったりするのでは・・・と思っていましたが,そうですね,確かにオクターブ変わっているところも言われてみれば分かりました(それまで気付かなかったのがお恥ずかしいですが)。
考えてみればこれまであまりトランペットの方にいろいろな話を伺う機会が少なかったように思います。とても参考になる話を聞かせていただきましてありがとうございます。これからもいろいろとコメントいただければ嬉しいです。
2005/07/13
(水) 00:53:44 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
(水) 00:53:44 | URL | CEN #Ea9OUDOk[ 編集]
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
作曲:モデスト・ムソルグスキー編曲:レオポルド・ストコフスキー指揮:オリヴァー・ナッセン演奏:クリーヴランド管弦楽団ムソルグスキーの組曲《展覧会の絵》といえば、いわゆるクラシック音楽と呼ばれる曲の中でもわかりやすくて、ポピュラーな部類に入る....
2005/07/06(水) 16:20:57 | ロシアの響き〜あまりにロシア的な〜
| ホーム |

